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仙台高等裁判所 昭和32年(く)17号 決定

少年 A(昭和一七・七・一生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福島家庭裁判所郡山支部に差し戻す。

理由

本件抗告理由は、原決定には重大な事実の誤認あることを疑うに足るものがあるというのであるが、記録を精査しても、原決定の非行事実の認定に誤りがあるとは認められない。

しかし、記録につき少年の経歴、非行歴、性格、素質、行状、環境等を勘案し、ことに、同居の親族中父は前科のあるもので、日夜飲酒に耽つて家庭を顧みず、少年の補導教育についてはほとんど無関心であり、兄も素行不良で少年と共謀して本件強盗を犯したものであり、母は父との折合が悪く、三年前より福島市に別居し、精神病質の疑いのあるものであつて、他に保護能力を有するものがいないことを考慮すれば、右のような家庭環境の改まらないかぎり、少年を施設に収容して矯正教育を受けしめることは、一応相当の措置と認められるが、記録によれば少年はいわゆる精神薄弱児であつて、小学校在学当時から学業を嫌い、その成績は不良であり、中学校にも入学式に列席しただけでその後は全く登校せず、義務教育さえも満足に受けるに堪えないような智能程度の低いものであることが認められるから、少くとも少年を普通の智能を有するものの矯正教育を目的とする普通少年院に収容することは相当でないと思料される。従つて、原決定が少年を初年少年院に送致する旨の決定をしたのは、著しく不当と認められるので、少年法三二条三三条二項少年審判規則四八条二項五〇条により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 有路不二男 裁判官 杉本正雄)

別紙一 (原審の保護処分決定)

○主文および理由

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一、少年を審判に付した理由

罪となるべき事実は昭和三二年五月二九日付司法警察員の少年事件送致書、同年六月七日付関係書類追送書及び同年六月一〇日付関係書類追送書記載の通りであつて少年の行為中強盗の点は刑法第二三六条第一項第六〇条、各窃盗の点は同法第二三五条、住居侵入の点は同法第一三〇条第六〇条、銃砲刀剣等所持取締令違反の点は同令第二条第二六条第一号、各詐欺の点は刑法第二四六条第一項に各該当するので、少年法第三条第一項第一号により少年を審判に付した。

二、少年院送致の理由

家庭裁判所調査官補作成の少年調査票中調査者の意見欄記載の事情により少年を初等少年院に送致するのを相当と認める。よつて主文の通り審判する。

(昭和三二年七月五日 福島家庭裁判所郡山支部 裁判官 石川義夫)

別紙二(引用された非行事実)

一、第一被疑者B、第二被疑者Aは共謀の上強盗の目的をもつて昭和三二年五月二四日午後八時三〇分頃○○市××△△番地C居宅内に共に覆面にて侵入し同人の妻C子(二五年)並に雇人E(四二年)に対し、所携の二連発猟銃を突きつけて、騒ぐな弾は四発入つているんだ、金があるんだろう、出せと脅迫し、同人等をして抗拒不能の状態に陥入れ、因つて同家六畳茶の間より右C所有のズック製鞄入りの現金一三、〇〇〇円位、カミソリ刃新品包二〇ヶ位、チュウインガム二〇ヶ位時価合計二、八〇〇円相当を強取したものである。

二、第二被疑者Aは昭和三二年四月中旬頃の日不詳午後八時三〇分頃、○○郡×××町字△△○○○○番地銃砲火薬商F(二八年)方店舗内より右同人所有に係る無鶏頭元折二連発猟銃一丁時価三〇、〇〇〇円相当を窃取したものである。

三 、第二被疑者Aは何等法定除外事由ないのに拘らず昭和三二年四月中旬頃より昭和三二年五月二四日迄○○市××町△△△番地の自宅において公安委員会の許可を得ず不法に無鶏頭元折二連発猟用銃一丁を不法に所持しておつたものである。

四 、被疑少年は昭和三二年三月下旬頃の不詳日午後一時頃○○市×町△△番地○○○百貨店G当三六年方店舗から同人所有の電気カミソリ器一ヶ時価二九五〇円相当を窃取し、

五、更に被疑少年は昭和三二年三月二八日午後九時三〇分頃○○○町字×町△△△番地ラジオ商H方店舗から同人所有の携帯ラジオ二台時価二一、八五〇円相当を、

六、更に被疑少年は昭和三二年四月一〇日頃の午後八時頃○○市×町△△番地○○洋服店I当五三年方店舗から同人所有のダスターコート一枚時価二、七〇〇円相当を、

七、更に被疑少年は昭和三二年四月二〇日午後七時頃右同I方店舗から同人所有のダスターコート二枚、衣紋掛一ヶ、時価五、五五〇円相当を、

八、更に被疑少年は昭和三二年四月一八日午前一一時頃○○駅前のJ商店新築現場から○○郡××町大字△△字○○××番地板金工K当二五年所有の中古自転車一台時価一〇、〇〇〇円相当を、

九、更に被疑少年は昭和三二年四月一八日午前一一時三〇分頃市内小学校前から○○市字×××△番地○○工機部L当三一年所有の自転車鑑札一ヶを、

一〇、更に被疑少年は昭和三二年四月二〇日午後二時頃○○市駅前○○電機○○出張所前の道路上から○○郡××町大字△△字○○××番地自動車助手M当一七年所有の中古自転車一台時価一〇、〇〇〇円相当を、

一一、更に被疑少年は昭和三二年四月二〇日頃の不詳日○○市××町△△番地衣料品店N当四五年所有のイクルヂャンバー男物二枚時価二、二四〇円相当を、

一二、更に被疑少年は昭和三二年四月二三日午前九時頃○○○市×△丁目地内○○銀行○○○支店前から同市○×丁目△△番地O当四五年所有の新品程度自転車一台時価一八、五〇〇円相当を、

一三、更に被疑少年は昭和三二年四月二五日頃の不詳日○○○市字×町△△丁目×番地電気ラヂオ販売店P当六一年方店舗から同人所有の携帯ラヂオ一台時価一二、九〇〇円相当を、

一四、更に被疑少年は昭和三二年四月二五日午後四時頃○○市××△△番地クリーニングQ当三六年方店舗前から同人所有の中古自転車一台時価六、〇〇〇円相当を、

一五、更に被疑少年は昭和三二年四月二四日頃の不詳日○○市××町△△番地衣料品店○○R当四五年方店舗から同人所有の男物ヂャンバー一枚時価二、二四〇円相当を、

一六、更に被疑少年は昭和三二年四月二九日午後二時頃○○市×町○○○百貨店前から○○市××町字△町○○番地農業S当四八年所有の新品程度自転車一台時価一五、〇〇〇円相当を、

一七、更に被疑少年は昭和三二年五月一日午後二時頃○○市××町△△番地衣料品店○○R当四六年方店舗前から同人所有の中古自転車一台時価四、〇〇〇円相当を、

一八、更に被疑少年は昭和三二年五月八日午前一一時○○市××○○○パチンコ店前の道路上から○○郡××町大字△△△字○○○×××番地会社員T当四二年所有の中古自転車一台時価一〇、〇〇〇円相当を、

一九、更に被疑少年は昭和三二年五月一〇日午前一一時頃○○市×町△△商店前道路上から○○市××町△△△番地石油販売業U当五四年所有の中古自転車一台時価八、〇〇〇円相当を、

二〇、更に被疑者は昭和三二年五月一四日午後二時頃○○市×町△△番地家具商V当三一年方店舗脇から同人所有の新品程度自転車一台時価一八、〇〇〇円相当を、

就れも窃取したものである。

二一、昭和三二年四月中旬頃の不詳日○○市××町△△△番地○○第△△配給所に行き同所の事務員W五一年に対し○○市字×××△△番地Xから頼まれて来たが同人の配給通帳を貸してくれ、と虚構の事実を申向

け其の旨同人をして誤信せしめ即時同所に於いて同人から上記Xの主食配給通帳を交付せしめてこれを騙取し、

二二、更に被疑少年は右同日頃同市××△番地○○第○配給所Y当四八年方に行き同人に対し右同様の手段を用いて○○市字×××△△番地Zの主食配給通帳を交付せしめて之れを騙取し、

二三、更に被疑少年は右同日頃○○市××町△△番地○○第○○配給所D当二七年方に行き右同様の手段を用いて幣導内○○砂利店の主食配給通帳を交付せしめ之れを騙取したものである

別紙三 (差戻し後の原審の保護処分決定、報告事件第四号)

○主文および理由

主文

少年を福島保護観察所の保護観察に付する。

理由

第一、非行事実

少年は、

一、昭和三二年三月下旬頃の午後一時頃、○○市字×町△△番地○○○合名会社店舗内において、同社代表社員G管理にかかる電気剃刀一個時価二、九五〇円相当を窃取したほか、別表第一記載のとおり一七件の窃盗を犯し、

二、上記贓品処分のため、米穀配給通帳の騙取を企て、同年四月中旬頃○○市字××町△△△番地○○第○○配給所において、同所員Wに対し、その事実がないのにXに依頼されたように装つて「Xの通帳を一寸貸してくれ」と申向け、よつてその旨誤信した同人からすぐその場で右X名義米穀配給通帳一通の交付を受けて、以つてこれを騙取したほか、同様手段を用いて別表第二記載のとおり二件の詐欺を犯し、

三、何等法定の除外事由がないのに、同年四月中旬頃から同五月二四日までの間、肩書居宅において、公安委員会の許可を受けないで、無鶏頭元折二連発猟銃一丁(証第一号)を所持し、

四、実兄B(昭和一三年七月一三日生)と共謀の上、強盗の目的で、同年五月二四日午後八時三〇分頃○○市××番地C子方居宅座敷内に両人で侵入し、同女(二五年)及び同家雇人E(四二年)等に対し、所携の二連発猟銃(証第一号)を突つけ、少年が「さわぐな。弾は四発入つているんだ。金があるだろう。出せ。」と申向けて脅迫し同女等をして抗拒不能の状態に陥れて、Bの手でC子所有の現金一三、〇〇〇円その他雑品在中のズック袋一個を強取し、

たものである。

第二、罰条

第一、の事実は刑法第二三五条に

第二、の事実は同第二四六条第一項に

第三、の事実は銃砲刀剣類等所持取締令第二六条第一号第二条に

第四、の事実は刑法第二三六条第一項第一三〇条第六〇条にそれぞれ該当する。

第三、問題点

鑑定によれば、少年は精神病者ではないが、高度の精神薄弱者であり、判断力洞察力に欠けるため、即行性暴発性が顕著であり、適応能力の低いためフラストレーションを起し易く、性格的には弱志性被影響性の異常昂進があり、意思薄弱の鈍型に属する精神病質者と認められ、その治療は、長期にわたる忍耐強い指導と教育的な環境を必要とするというのである。

初等少年院入院時の体験は、盲愛の中に育ち幼児期の心理を脱していなかつた少年に大きな衝撃を与え、拘禁性反応を呈するに至つたと考えられるが、現在も自己防衛機制が顕著に作用して居るものと思料されるところ、少年の知能は新田中式によるI・Q・四〇ウエスクラー言語式で七七であり鑑定人の言によれば、四〇乃至四五の程度と思料され、集団処遇には困難があるものと考えられる。

飜つて少年の家庭を見るに、実父は大酒家で素行修らず、子女に対し従来極めて放任的であり、実母は典型的なヒステリー性格の所有者であつて、両人の仲はとかく円満を欠き、最近まで別居していたが、本件非行後再び同居するに至り、自らの手で少年の更生を図ろうとしており、特に実母は少年に対し狂信的な愛情を注ぎ、少年も亦実母に対し絶大な信頼を寄せており、その家庭に対する愛着は無視することはできない。

第四、保護処分選択

上記の諸事情を綜合するに、現段階においては、少年を家庭に復帰させ、専門的な助言と援助を得て、保護者による教育監護を充実せしめることが相当と認められるので少年法第二四条第一項第一号少年審判規則第三七条第一項に則り、主文のとおり決定する。

(昭和三二年一二月五日福島 家庭裁判所 郡山支部 裁判官 富川秀秋)

別表第一および第二省略

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